ベビー手話とは?
まだ喋れない赤ちゃんに手話を教えて、家族とのコミュニケーションを可能にする手法です。
赤ちゃんへの誤解
「まだ喋ることすらできないのに…」とお考えの方が少なくありません。
これは、赤ちゃんが喋れないのは “言葉を理解できるレベルにまで知能が発達していないから”と誤解しているからでしょう。
赤ちゃんの能力
赤ちゃんは生後半年くらいから記憶力が発達し始め、1歳くらいですでにおとなの言葉をある程度理解しています。
1歳半くらいになると意思や要望が多様になりますが、それを表現できないストレスから泣き喚くようになります。
では、なぜ喋れないのでしょう?
お口の発達
それは、喋るために必要な口の周りの筋肉や舌が発達するのに2年くらいかかるからです。
つまり、知能はお喋りが可能なレベルに達しているのに、お口の発達が追いついていないだけなのです。
手の発達
一方、手は生後半年くらいでいろんな動作が可能になります。
手をニギニギしてみたり、両手を合わせてみたり、バンザイしてみたり。
ですから、手を使った意思伝達手段を赤ちゃんに教えることができれば、
言葉を喋れなくてもコミュニケーションができるのです。
ベビー手話の効果
意思の疎通ができ、親子ともストレスが軽減します。
『ベビー手話の理論』 で述べたとおり、 1歳半くらいから赤ちゃんが気難しくなるのは、意思や要望が多様化するのにそれらを理解してもらえないストレスからです。唯一の伝達手段である泣くことで表現するため、 何をしても泣き止まない我が子に困惑して、親にもストレスが溜まります。思わず「もう!どうして欲しいの?」などと声を荒げてしまうと、 赤ちゃんにさらにストレスを与えてしまい、悪循環になってしまいます。 ベビー手話はこのような状況を防止する一助になります。
親子の絆が強まります。
手話でお互いに考えていることを伝え合えれば、絆が強まるのは当然といえます。 でも、それだけではありません。 赤ちゃんに手話を教える過程で、見つめ合うことが多くなるのです。1日に何回も見つめ合い、笑顔を交わす。 これで絆が強まらないわけがありません。
コミュニケーションに対するこどもの関心が強まり、早く喋れるようになります。
べビー手話の研究が始まった頃は、 赤ちゃんが手話に頼ってしまってお喋りができるようになるのが遅れるのでは、と懸念されていました。 結果は逆。個人差はありますが、ベビー手話を実践した赤ちゃんの方が早く喋るようになる傾向にあります。 これは、口の周りの筋肉や舌が充分に発達して発音できるようになる前に、赤ちゃんがすでにコミュニケーションというものを理解しているからです。
こどもが人格を持った存在であることを実感できます。
赤ちゃんに感情を表現する手段が「笑う」と「泣く」しかなければ、周りの大人たちは「機嫌が良い/悪い」しか判断できません。 笑い方や泣き方によってある程度の推測はできますが、唐突に泣き出した理由が判らなくて困ることもしばしばあります。 ベビー手話で感情表現ができるようになると、 赤ちゃんが想像以上に高度な精神活動をしていることが判ります。 どんなに小さくても自我があり、自分と相手との関係から生まれる共感・反発といった感情があり、こだわったり、味わったり、思い出に浸ったり、 嫉妬したりするのです。「ひとりの人間」としての精神構造をすでに持っていることを知れば、その後の子育ても大きく変わるでしょう。
ベビー手話の歴史
■1960年代
ベビー手話は、誰かの思いつきで突然生まれたわけではありません。
1960年代 にはすでに、生後10ヶ月の赤ちゃんが70を超える手話のサインができたとの論文が発表されていたそうです。
■1980年代
1980年代半ばになって、言語学、児童心理学、コミュニケーション学などあらゆる分野の学者が、
手話やジェスチャーによる乳幼児とのコミュニケーションについて研究を始めました。
研究のきっかけは学者によって様々でしたが、学者同士が研究を進める過程で情報を交換し合い、研究を発展させてきました。
■1990年代
1990年代半ばには、研究結果の論文やノウハウ本が相次いで出版され、
これらを元に様々な実践プログラムや教材が開発されました。
■2000年
2000年には、8年間にわたる追跡調査の結果、ベビー手話で育った子供は、
ベビー手話を実践せずに育った子供に比べ平均IQが12点高かったことが発表され話題を呼びます。
こうして長い年月をかけて学者達が研究を重ね、改良を加えてきたのです。
■2004年
2004年末に全米トップの人気となった映画『ミート・ザ・ペアレンツ2』に、
大物俳優が赤ちゃんにベビー手話を教えるシーンが登場し、メディアでも取り上げられます。
赤ちゃんとのコミュニケーションを図る方法として、 現在ではポピュラーな育児法となっています。
ベビー手話の種類 ~ASL派とジェスチャー派~
アメリカで実践されているベビー手話プログラムは多種多様にありますが、大きく2つに分類することができます。
ここでは「ASL派」「ジェスチャー派」と名づけて、2つの違いを比較してみましょう。
ASL派
使用するサインは、アメリカ手話(American Sign Language)が基本。それを子どもに教える。
<<特徴>>
○American Sign Language(ASL)の共通言語としての機能を重視。
○親のみでなく、ベビーシッターや保育所の先生、 さらには他の子供たちが同じサインを使って赤ちゃんとコミュニケーションできる。
○コミュニケーションには発信と受信があることを教えられる。
●大人が最初に覚えなければならない。
ジェスチャー派
手話やジェスチャーの中から自由にサインを選ぶ、または親が工夫して創作して子どもに教える。
<<特徴>>
○親子間のコミュニケーションツールとしての機能を重視。
○こどもが何かに興味を示したときに即興でサインを創り出すことができる。
○こどもが自ら出したサインやジェスチャーをそのまま採用できる。
●サインが曖昧になることがある。(他のサインと似てしまう。)
ASL派のメリット
■シンプル
ASLはアメリカのろう者が日常会話に用いている言語です。
多民族国で発達したので、 どんな文化背景を持つ相手にも伝わりやすいジェスチャーを多く取り入れており、シンプルなのが特徴です。
ベビー手話がアメリカで開発されたのも、ASLのシンプルさに成功の鍵があったのかもしれません。
■アメリカで3番目に使われている言語
ASLはアメリカでは英語、スペイン語に次いで3番目に多く使われている言語です。
言語関係や教育関係の大学では必修科目にもなっています。
■教材が豊富
ASLを使う人口が多いということは教材が豊富ということを意味します。
手持ちのベビー手話教材に含まれていないサインがたくさん必要になった場合でも、
あらゆる教材の中から最適なものを選択できるのです。
■アメリカ人の豊かな表現力
アメリカ人は通常の会話の中でもジェスチャーを多用します。
この影響を受けて、ASLも大きな動きで表現するものが多く、こどもに判りやすいサインになっています。
■英会話学習の第1ステップになり得る
ASLの教材はもちろん英語。サインの学習と同時に、英語の学習もできます。